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残雪の季節

2021/04/28

 

今は昔、といってもせいぜい20年ほど前のことですが、小学生だった私は家族で富士山に登ったことがありました。おぼろげな記憶から当時の様子を思い起こすと、吉田口から登ったようです。

年月が経って、上京後、富士山は身近な山になったので、年に何度も登ったものです。飽きずに登っていると逸話のひとつやふたつ生まれるもので、あるとき7合目か8合目の山小屋にカメラを忘れてしまったことがありました。親切にも自宅まで郵送していただいたのですが、その翌週末に再び山小屋までお礼を言いに行った際は、かなり驚かれたのを覚えています。

それぐらい山に親しんでいたので、天気を仕事にしていても、まず山のことが気になってしまいます。このコラムは「山と天気」がテーマということになっていますが、主役はあくまで山のほうだという気持ちで進めていこうと考えています。

さて、甲府市富士見にある気象情報室から西方を望むと、農鳥岳の岩壁に、農鳥の雪形がくっきりと浮かび上がっています。麓では初夏の陽気となってなお、北岳、間ノ岳、農鳥岳だけが多くの雪をまとう姿を見ると、白根三山という名前がストンと胸に落ちてきます。この白根という呼び名は古く、鎌倉時代に成立した平家物語にも「北に遠ざかりて、雪白き山あり。問へば甲斐の白根といふ」という有名な一説が。ただし、この場面は平重衡が一ノ谷の合戦に敗れて鎌倉に送られる途中のことなので、今の静岡市付近から南アルプスを仰ぎ見ていることになり、正確には山脈の北部に位置する白根三山は見えません。おそらく赤石岳や悪沢岳といった南アルプス中部の山の残雪を見たのでしょう。赤石岳は関東からもよく見え、そういえば、新宿の高層ビルの展望台に上ると富士山の後方に顔を出していたと記憶しています。