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文句の付けようがない・・・という文句

2022/11/09

 休日を利用して、御坂山地・新道峠のFUJIYAMAツインテラスへ行ってみた。ここは「富士山を独り占めできる場所」「バスを降りて5分で富士山の絶景へ」という謳い文句で笛吹市が昨年7月に整備した新しい観光スポット。紅葉の時期とあって、休日の送迎バスは臨時便が出るほどの人気ぶりだ。

 バスを降り、テラスまでは段差の小さい階段をひょこひょこ登るだけ。稜線にたどり着くやいなや目の前にどーんと富士山。眼下には河口湖と町並み。空は真っ青。輝く太陽。山腹を横切る細長い層積雲と軽やかな巻雲が白く光る。稜線の樹木は黄葉。透き通る空気感。網膜も肺腑もどんどん浄化されていく。文句の付けようがない空間がそこにあった。

 世界中に成層火山はあまたあるが、富士山ほどの秀麗さはまさに不二ではないか。1500㍍ほどの高さから俯瞰すると、大地に目いっぱいすそのを広げるだけ広げた巨大で美しい造形物にも見える。いきおい地理・地形の世界に思いが飛ぶ。どのようにしてこの山はできたのか。何故ここにできたのか・・・。日本列島形成の歴史、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートのせめぎ合い、伊豆・小笠原弧の衝突、先小御岳火山、小御岳火山、古富士火山、新富士火山と続く成長の歴史・・・。雄大な景色に誘われ、頭の中の時間も空間も広がるばかりだ。そういえば、ここ御坂山地も900万年前に伊豆・小笠原弧が本州に衝突してできたものだと、その手の本で読んだ覚えがある。

 富士山は平成25(2013)年6月に世界文化遺産に登録された。日本文化の象徴、日本人の心の拠り所、精神に根付くものなどという評価だが、その秀麗な姿からくる荘厳さも、その前提として存在している。この姿形だからこその日本の象徴かもしれない。

 フッと別な思いが頭をよぎる。富士山は過去に山体崩壊が何度もあったという。江戸時代宝永4年(1707年)の噴火以来、300年以上沈黙している富士山は、東海、東南海、南海トラフの巨大地震の切迫さと相俟って、次の噴火の懸念が高まっている。もし大噴火となり、山体が崩壊し、あの秀麗な姿が失われたら・・・。文句の付けようがない景色だけに、それが失われたときの衝撃の大きさ。「文句の付けようがない」は、その消失への恐れを伴うという文句が潜んでいる。

 いやいや、余計なことは考えずに、ただただ、その優雅な姿でいる富士山に向き合える時代に遭遇できた幸運に、素直に感謝することにしよう。