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春一番、山梨は蚊帳の外・・・「風の春」は南アルプスが関所に

2022/03/08

春の訪れに一部凍った湖面も溶け始めた山中湖。水面を白鳥がのんびり泳ぐ(3月3日撮影)

 5日、関東地方と東海地方で春一番が観測された。関東は昨年より29日遅く、東海は13日遅い観測という。はて山梨は・・・?天気予報では「関東甲信地方」でくくられることが多いのだが、春一番の発表は「関東地方で吹きました」と、なぜか甲信は入っていない。

 5日の甲府地方気象台のデータを確認すると、15時10分に風速8.0m/s(10分間の平均風速)の西南西の風が吹いている。気温も最高気温で前日の12.5℃から19.2℃に昇温している。「おいおい関東地方の春一番の基準をクリアしているじゃないか。なんで山梨は発表から外れているのだ」と、蚊帳の外に置かれたもやもやを抱えつつ、気象庁の天気相談所に聞いてみた。

 「じつは、山梨が外れている理由の詳細は不明なんです。春一番が吹いたかどうかの問い合わせが少ないことや、内陸という地形で春一番が吹きにくいからというのが背景にあるようです」。電話口で話す方は親切丁寧に説明してくれた。その方が言うには、1970年代後半には各地方の基準が整いはじめ、今の基準になったのは1992年頃という。その基準に従い、1951年まで遡って春一番が吹いた日の統計も整えられている。「え、詳細不明?」。もやもやは一段と濃くなってしまった。

 気象庁の「いろいろな風に関する用語」にある春一番の解説は「冬から春の移行期に初めて吹く暖かい南よりの強い風」とあり、備考として「立春から春分までの間に、広い範囲(地方予報区くらい)で初めて吹く暖かく(やや)強い南よりの風」と補足されている。この基準に沿って、関東地方、東海地方、北陸地方、近畿地方、中国地方、四国地方、九州北部地方、九州南部地方の8地方で、その地方の管区気象台や中心的な気象台が「〇〇地方で春一番が吹きました」と発表している。北海道、東北地方、沖縄は発表していない。

 各地方の発表の基準は「立春から春分の間」「南よりの強い風」「日本海に低気圧がある」という点では共通だが、風の強さは7m/s、8m/s、10m/s(10分間の平均風速)などと差があり、気温は前日からの昇温のところが多いが平年より高ければOKというところもある。観測地点もエリア内の1地点を優先するところや「いずれかの気象台で」というところもある。日本海の低気圧も、発達中という注文をつけるところが多い。その地方の状況を考慮してのばらつきのようだ。

 ちなみに関東地方は①立春から春分まで②日本海に低気圧(発達すれば理想的)③関東地方における最大風速が、おおむね風力5(風速8m/s)以上の南よりの風が吹いて、昇温した場合-を基本に総合的に判断する、とある。関東地方における最大風速とあるが、東京での観測データがポイントになっているようだ。

 よその地域の話を延々続けたが、山梨の話に戻ろう。発表対象8地方の39都府県の中で、細かく見ると、山梨と長野だけが発表から外れている。海に面していない内陸県は全国で8県あるが、山梨、長野以外の6県は発表の対象になっている。山梨は、西側に南アルプスが屏風のようにそそり立っていて、確かに南西系統の風は入りにくい。実際、今年は関東の春一番の日に、甲府でも基準にあった風が吹いたが、基準に満たない年が多いのも事実だ。とはいえ、蚊帳の外には一抹の寂しさはある。

 「光の春」は気象キャスターの草分けである故倉嶋厚さんが国内に紹介した素敵な言葉だ。春は、まず立春の頃の「光の春」で始まり、春分の頃に「気温の春」となって春本番を迎える。この体で言えば、春一番は「風の春」。光、風、気温と順番に春を感じたいところだが、「風の春」はなかなか南アルプスを乗り越えられないようだ。頑張って乗り越えても公式には発表されない。

 「こうなったら気象情報室が独自に、山梨の春一番を発表しちゃおうかな」なんて思いつつ、春うららの風景をぼんやりと眺めている。