室長のひとりごと
凍るのか凍らないのか、それが問題だ・・・温暖化に脅かされる冬の風物詩
この時期になると、凍るのか凍らないのか気になる湖が2つある。諏訪湖と山中湖。いずれも手軽に行ける親しみ深い湖だ。諏訪湖は御神渡り(おみわたり)、山中湖はワカサギ穴釣りという冬の風物詩が待ち遠しい。
まずは諏訪湖。御神渡りは、全面結氷した諏訪湖の氷が昼夜の気温変化で膨張と収縮を繰り返し、ひび割れた氷がせり上がってできる氷の筋を言う。正式には諏訪大社上社摂社の八剣(やつるぎ)神社の宮司や総代が拝観式で認定する。氷の筋の方向など出来具合を過去の記録と照らしてその年の世相を占う神事につながる。氷の筋は、諏訪大社上社の祭神・建御名方神(たけみなかたのかみ)が下社の祭神・八坂刀売神(やさかとめのみこと)の元へ通われた道筋であるとの伝承がある。何とも人間くさい伝承で、氷が舞台とはいえ温かみがある。
驚くことに、この記録は室町時代の1443年から続いているという。応仁の乱の24年前、もはや日本史の世界だ。今年で579年にもなる。これだけ長きにわたる気候変化(結氷の有無)の定点観測は世界でも例がなく、海外からも注目されている。ナショナルジオグラフィック日本版サイトのニュース「諏訪湖の御神渡り600年の記録が伝える気候変動」(2006年5月2日)では「人類が長年かけて気候に与えてきた変化の物語をはるかに完全な形で伝えている」と言い、大作映画のような記録と賞賛している。
かつては毎年のように出現したという。しかし最近は途切れ途切れの出現となっている。直近は2018年2月。この時は休みを利用して見に行った。5年ぶりの出現だったので、大勢の見学者で現場は大賑わい。「神様の足跡」を遠巻きに見たり、恐る恐る氷上に数歩歩みを進めて写真を撮ったりした=冒頭写真。
記録では、昭和は63年間で48回出現したと言い出現率は76%。平成は31年間で9回の29%。令和の世になっては、まだない。今年も小寒の5日から八剣神社の宮司らによる見回りが始まった。初日の様子を見た宮司は「薄い氷だがほぼ覆っていて期待できる」とメディアに語っている。果たして今年は・・・。
山中湖のワカサギ穴釣りも、富士山をバックにした光景が冬の風物詩として知られている。かつては毎年のように穴釣りが解禁されていたが、最近はこちらも途切れ途切れで、直近は2014年の部分解禁が最後。湖の全面結氷となると2006年まで遡る。この時も22年ぶりだった。穴釣りの光景は、御神渡り以上に途切れがちだ。この冬も冷え込みが強いとはいえ、結氷具合はまだまだだ。
こちらも100年の歴史を持っている。山梨市(当時は日下部村)出身の東大大学院生だった雨宮育作氏が、茨城県霞ヶ浦のワカサギの卵を放流したことが始まりであると、大学の地域貢献事例として「山中湖のワカサギと東京帝国大学」(齋藤暖生)という東大の資料にある。1919(大正8)年に河口湖と山中湖に放流したことから、山中湖村内では大正8年を始まりとする説になっているが、実はその時は事情があって放流未遂で、1922(大正11)年になって初めて山中湖にワカサギが導入されたというのが妥当である、と指摘している。穴釣りはその14年後の1936(昭和11)年に、群馬県の榛名湖で盛んだったものを、雨宮氏と交流のあった同じく東大の西垣晋作氏が導入したという。山中湖のワカサギは今年がちょうど導入100年に当たる。その記念すべき年に、8年ぶりに穴釣りが復活する光景を見てみたい気がするが果たして・・・。
どちらも「果たして・・・」だが、温暖化が進むなか、その旗色は悪い。前述のナショジオ日本版サイトには、日本とフィンランドの定点観測記録を解読・分析した国際研究チームの考察として「もし大気中の二酸化炭素濃度と気温が上昇を続ければ、神道が伝える神は、ある年を最後に諏訪湖を渡れなくなるかもしれない」と締めくくったことを紹介している。どうやら、建御名方神の怒りに触れる前に温暖化を止めなければならない状況にある。